ー 三輪えり花さんに聞く ー
バレエダンサーに演技指導する時に感じた
3つの課題 #3
インタビュー#2は「生徒がレッスン中に先生の顔色を見過ぎている」についてお伺いしました。
(2つ目のインタビューはこちらから)
もちろん、舞台作品創作において、オーダーに応えることは必要
しかし、「演技」の基礎トレーニングにおいて集中するべき点とは異なる
ということをわかりやすく解説して頂きました。
本日は3つ目をお届けします。
- 三輪えり花さんの詳しいプロフィールはこちら
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慶應義塾大学卒業、ロンドン大学大学院演劇科修士。
文化庁派遣 芸術家在外研修員として
英国王立演劇アカデミー、
ロイヤル・オペラハウス等で
演出・演技・演劇教育の研修を積む。
⻄洋古典劇から、欧米の現代劇に至るまで
幅広く翻訳・演出。
シェイクスピアの楽しみ方を紹介する
「シェイクスピア遊び語り」
を毎年上演している。
公益社団法人国際演劇協会日本センター理事。
新国立劇場バレエ・オペラ研修所で
10 年間演技講師を務める。現東京藝術大学講師としてご活躍中。
『シェイクスピアの演技術』
『英国の演技術』
などの著者としてもご活躍中です。
「表現力」の課題 #3 本心を内に隠す文化の弊害
- インタビューの書き起こしはこちら
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■「本心を内に隠す文化の弊害」
バレエダンサーに演技指導する中で見えてきた3つ目の課題は
「内に隠す文化の弊害」
です。
これは日本文化の
「美」や「美徳」
の象徴であるもののひとつです。
※謙譲の美徳=「謙遜」に該当するものと思われます。
へりくだること。控え目な態度をとること。また、そのさま。
「謙遜して何も語らない」
ーコトバンクより引用ーしかし、これは残念ながら西洋舞台芸術の表現力を高める上では大きなブロックになる要素のひとつです。
西洋文化では
「しっかりと意志を表現する、伝えなければ伝わらない」
というコミュニケーション方法が取られます。「控えめにして言わなくてもわかってもらえる、阿吽の呼吸」
というコミュニケーションではない。その違いを理解する必要があります。
■漠然と怖くなる「周りで見ている人の目」
「しっかりと意志を表現する、伝えなければ伝わらない」
このような西洋文化の前提をもとに演技メソッドがあります。しかし文化の異なる日本人の多くは「周りの目が」が気になって、謙譲の美徳=「謙遜」のメンタルをもとに
「こんなに感情を出したら大袈裟で嫌らしく見えるかな」
とついつい思ってしまう。
これはひとつめの「カワイイ」文化の話とも共通する話になるのですが、、
舞台表現の「表現力」を養い、高めるために「感情表現をハッキリと出す」
というのは必要不可欠なトレーニングなのですが
「カワイイ」どころか
「あの人、感情をこんなに出す!」と思われてしまう!
という精神的な「脅威」になります。
(しかし実際にトレーニングをしてみると、感情を出さないこと、出せないことが表現としてとてもマイナスだということを皆さん理解し、納得されます)「私はどう思われるのだろう」
「拒絶されてしまうかもしれない」
そのような精神的なブロックが発生し、稽古場でもそういったことをしたくなくなってしまう。
冒頭に日本文化では、と言いましたが、実は「内に隠す」というのは何も日本人だけではないと思います。
バレエのキャラクターで言いますと
「白鳥の湖」のオデットも
「くるみ割り人形」クララも人前では本心を隠し、内気で自分の言いたいことが言えず、内に秘めるタイプのキャラクターです。
しかしながら舞台に立つ表現者は
「表現できる」
ということを前提に
「隠す」
ということができることが求められていきます。
「表現できない、感情表現するのがこわい、隠している状態」のまま
人間社会でタブーとされている「欲望」や感情表現の「激しさ」を表現する必要のある黒鳥やカルメンが演じられるかというと実際とても難しいところが出てきます。
「カワイイ、美しい、愛らしいキャラクター」というのは多くの人がやりやすく、できると思うのですが、物語となると「悲劇」も多くあります。
公演する作品として取り扱いも多いですね。「ロミオとジュリエット」を取り上げてみても、作品に登場する登場人物のほとんどが「恐怖」や「苦しみ」「葛藤」を持っていたり、大変な悩みや悲しみに取り囲まれているシチュエーションもたくさん劇中に出てきます。
そういうネガティブな感情を表現するところにたどり着くためには人間心理の理解や様々な訓練も必要で、それぞれが乗り越える必要のある課題があるかなと感じています。
ー つづく ー
えり花さんに聞く3つの課題、3つ目はいかがでしたでしょうか?
演技、演劇と言ってもメンタルを取り扱う部分も多く
はっきりとこれが正解ということは難しいですね。
「ではどのようにトレーニングするのか?」
バレエテドのワークショップや講座でノウハウを学んでみてくださいね。
講習会のご案内はメールやHP等でお知らせいたします。